「大人になってから初めてADHDを発症する可能性」を示唆する研究発表
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、子どもに影響する障害と広く考えられているが、一部の患者は、大人になってから初めてADHDを発症する可能性もあるとの研究結果が18日、発表された。(AFP 2016年5月19日版「注意欠陥多動性障害、成人期に発症も 研究」より引用)
こんにちは。大人のアスペルガー症候群のよしまるです。
先天性のADHDと後天性のADHDがあってもおかしくない。
記事は「大人になってから初めてADHDを発症する可能性」を指摘。
もちろん、他の疾患でも先天性と生活習慣などによる後天性のものがあることからして、ADHDに先天性と後天性があってもあまり不思議ではありません。
記事の内容からすると、以下のようにADHDを分類することができます。
- 「小児期発症型ADHD」(子どもの時だけ発症するタイプ)
- 「成人期発症の遅発型ADHD」(大人になってから発症するタイプ)
- 「小児期から成人期まで続く持続型ADHD」(大人になっても治らないタイプ)
英国とブラジルの調査。1年前にも似たような研究結果がリリースされていた。
この根拠は、英国4000人、ブラジル5000人のコホート研究*1によるもの。
似たものでは、2015年にニュージーランドで1000人のコホート研究の成果が発表されており(ダニーディン出生者のコホート研究)、児童精神科医のものと思われるブログでも衝撃をもって迎えられていました。
ADHDは発達障害ではなくなる?
ADHD、昔は行動障害、今は発達障害、将来は?
なお、現状厚労省は、ADHDは、脳の一部機能に障害があるために発症する「発達障害」であるとしており、「不注意」「多動性」「衝動性」が「7歳までに現れ」るとしています。
アメリカの最新の診断基準であるDSM-5ではADHDは「神経発達障害」であり「12歳までに現れる」ものとしています。
一方で、この診断基準の前版であるDSM-Ⅳ-TRではADHDは「行動障害」であるとしており、「注意欠陥および破壊的行動障害」というカテゴリーに含まれてもいます。
つまり、行動障害から発達障害に変遷してきたADHDはおそらく未解明なことも多く、将来的にどのような位置付けになるか不安定な状態であると言わざるを得ません。
患者としては、非常に困ったことです。自分の病が「先天性」と言われたり「後天性」と言われたり、「発達障害」と言われたり「行動障害」と言われたり…
1.先天性のADHDと後天性のADHDがある。
眠れる大人のADHD
さて、研究発表に戻ります。追跡調査をしていく中で分かったのは、成人期ADHDと診断された人を詳しく調査したところ、小児期はADHDではなかったというもの。
つまり「後天性のADHDと見られる人が一定数いた」というのです。
しかも、従来の発達障害ADHDは、男児に多いものとされていましたが、この後天性ADHDに分類される人たちは、男女で発生率がほぼ等しい。
これは、ADHDの遺伝因子が大人になるまで目を覚まさず眠っていた「眠れるADHD」と言うべきか、発達障害とは関係なく大人になってから関わった環境因子や栄養因子等により発症する「後天性ADHD」と言うべきか。
さらなる研究の成果が待たれるでしょう。その結果によっては、後天性のADHDは全く異なる原因による障害ということもありえるでしょう。
すでに医療現場では受け入れられている考えなのではないか。
なお、国内でも、過去のヤフー知恵袋にこんな質問があり、成人期に初めて発症したADHD様症状に悩まされる大人が少なからずいることを暗示しています。
また、世界的な製薬会社イーライリリーが医師と患者のコミュニケーションのために発行している「成人期ADHDのスクリーニング-自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)」でも、「患者さんの病歴を評価するにあたって、注意や自己コントロールの問題が人生の早期にあらわれ、持続的であることを確認しましょう」と断りを入れつつ「小児期から持続している顕著な症状もあるはずですが、症候学的にみて診断基準を満たすほどである必要はありません」と、暗に後天性ADHDの存在を示唆しているかのような文言があることも実に興味深いところです。
2.後天性のADHDの方が、先天性のADHDよりも重症。
後天性のADHDでは、交通事故や犯罪行動の増加の傾向が見られる。
交通事故はまだしも、あまり軽々しく、「犯罪行動の増加の傾向」という表現を使うべきでないと思いますが、調査報告ではその点が指摘されているようです。原因としては、後天性のADHDが、先天性のADHDよりも重症であることが多いためと考えられます。記事の言葉をそのまま引用すると、
成人がADHDと診断される場合、注意欠如、活動過剰、衝動的行動などの症状が、子どもでみられるよりも重くなることが多く、交通事故や犯罪行動などの増加を伴う傾向がみられると、研究チームは指摘している。ADHDは、成人の約4%でみられると考えられている。<中略>さらに、英国の研究チームは「遅発型のADHD患者は、不安神経症やうつ病、マリフアナやアルコールの依存症などの罹患(りかん)率が高いことが、今回の調査で明らかになった」と
付け加えている。(AFP 2016年5月19日版「注意欠陥多動性障害、成人期に発症も 研究」より引用)
先天的なADHDの方が症状が軽いと考えられる理由。
まず、この理由として2つのことが考えられます。
1)小児期から発症している大人のADHD患者の場合、保護者、学校、行政などから幅広い支援を受けてきたため、ADHDの症状に対して様々な対策を講じる手段を持ち合わせており、困難な場合も相談が容易だと考えられます。
2)仮に小児期にADHDと診断されずに育った大人のADHD患者の場合でも、小児期にはADHDの症状を呈していたわけで、ADHDとは断定されずとも問題行動の多い子どもとして社会からのフォローを得て育ってきたため、成人期にADHDと診断されたとしても、症状の抑制に積極的であると考えられます。
後天的なADHDの方が症状が重いと考えられる理由。
一方、後天的ADHD、つまり後発型のADHD患者の場合、大人になったある時点からADHDが発症するため、どのように対処していいか分からなく、問題が深刻化すると考えられます。
また、後天性のADHDが発達障害によるものでないとしたなら、その対処法は発達障害のものと症状発生のメカニズムが異なっている可能性が指摘されており、当然ながら後天性ADHDの対処法に関する研究はまだなされていないと考えるのが自然でしょう。
現代社会の様々な因子が後天的ADHDを発症させているのかもしれない。
また、近く書きたいと思っていますが「スマホの通知がADHDと似た症状を引き起こす」という研究もあり、当然のことながら、現代社会は、情報過多であり、社会そのものに気を散らす要素が多すぎて、複雑化、多様化しています。
また、ドラッグやアルコール中毒、処方薬の副作用、慢性病の2次疾患、生活環境のストレスなどにより後天性のADHDの症状は原因そのものが複雑な因子によって形成されている可能性も否定できません。これも、早急な研究が期待されます。
3.子どものADHDが大人になるまで持続するケースは少数派。
子どものADHDの過半数は治る?
わたしが一番驚きを受けた研究結果が「子ども時代から大人時代までADHDが持続してる人は非常に少数だった」ということです。
この、子ども時代から大人時代までADHDが持続していた割合は、イギリスで32%、ブラジルで17%とばらつきがあり、非常に少数というのは言い過ぎだとしても、少数派といえるでしょう。
ここで分かるのは、90年代に言われていたように「ADHDは成長と共に症状が徐々に見られなくなる」という説はあながち間違いではなかったということになります。
つまり、発達は遅れているが、成人になるころまでには定型になるというのが多数派のようです。
アスペルガー症候群のカテゴリー内における注意欠陥他動特性群。
わたしは「アスペルガー症候群」という診断を大人になってから受けましたが、心理検査の結果ではADHDの特徴が認められると付記されています。
ただ、ADHDとしての症状が最も目立ったのは小学生高学年までで、中学生以降はアスペルガー症候群が症状の主体であり、あくまで「アスペルガー症候群のカテゴリー内における注意欠陥多動特性群」としての不適応が目立っていたように思います。
今でもADHDの症状はありますが、子どもの頃ほど、ひどくはありません。
おわりに
兎にも角にも、今のところ後天性のADHDが医学界で広く支持されているわけではないことは言うまでもありません。
成人期ADHDのさらなる調査と原因の解明、そして治療と支援のあり方、さらには小児期ADHDとは別の疾患であるとの判定には、より多くの研究が必要でしょう。
しかし、すでに後天性のADHD、つまり「大人になってから初めて発症するADHD」と考えられる疾患に苦しんでいる人がいることも事実です。今後の展開に注目していきたいと思います。
お読みくださり、ありがとうございました。
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*1:特定の集団(コホート)をターゲットとして、十数年にわたり追跡する長期間の調査研究をする分析疫学の観察的研究