アスペルガーのメソッド

ADHD、アスペルガーとして40年。身につけたメソッド(対策・生き方)をご紹介します。

発達障害(アスペルガー・ADHD)の「聞き間違え」。コミュニケーション問題の原因は「耳」?

はじめに

「発達障害」にみられる「コミュニケーション障害」は、脳の働きが主に関係していると考えられています。それで、現在は、IQテストが「コミュニケーション能力」の判断材料の一つになっています*1

それがもし、「耳の問題」も関係しているとしたら、ちょっと驚きではないでしょうか。

今日は、発達障害の中でも「自閉スペクトラム症」における「コミュニケーション障害」が「内耳」のトラブルとも関係があるかもしれないという研究に関する記事です。

1kHz(1,000ヘルツ)をキャッチする内耳に問題あり?

2013年 ウッチ医科大学の研究

まず、2013年のポーランド・ウッチ医科大学の研究では、3歳~18歳の自閉症の子どもに「耳音響放射測定」をしたところ、定型発達児に比べて1kHz(1,000ヘルツ)と2kHz(2,000ヘルツ)の帯域で耳音響放射が弱いという結果が出ました。

「耳音響放射測定」では、音の振動をキャッチする最終的なセンサーである「内耳(蝸牛の有毛細胞)の働き」を周波数別に測定することができます*2。耳音響放射が弱いというのは、多くの場合「内耳(蝸牛内の有毛細胞)」の機能不全を意味してます。

また、鼓膜聴力検査(ティンパノメトリー)では、タイプBとC2の曲線を示した(鼓膜や外耳の方にも問題があると思われる)自閉症児が多くみられたという調査結果も提示されました。

2016年 ロチェスター大学の研究

最近になって「自閉症」と「内耳」に関する研究を裏付ける新たな研究結果が発表されました。

米国国立衛生研究所(NIH)の資金提供によるロチェスター大学の研究によると、一般的な聴力検査で正常値だった6~17歳の自閉症児35人と、定型発達児42人に「耳音響放射測定」をしたところ自閉症児のグループの内耳で「耳音響放射の低下」が明らかに多く見られたことを報告しました。つまり、普通の聴力検査で異常がなくても、音響放射測定では異常があったということです。

特に「歪成分耳音響放射(DPOAE)測定」では、1kHz(1,000ヘルツ)帯での音響放射が自閉症児の方が25%低かったこともわかりました。さらに興味深い点として、耳音響放射の低下が「受容-表出混合性言語障害(コミュニケーション障害)」と関係している可能性があると指摘しています。

この点について、英国の国民保健サービスは研究者の言葉として「言語内の似たような母音を識別するのが困難になる」可能性があると解説しました。*3

しかし、自閉スペクトラム症の人の「耳音響放射の低下」が定型発達児よりも優位であると言い切るには、もっと大規模な調査が求められるでしょう。

日本でも、自閉症に対する耳音響放射の研究が進むことを期待しています。

1,000ヘルツ帯とコミュニケーション障害の関係性

1,000ヘルツ帯の障害で、まず思い浮かんだのが、英会話教材の宣伝などでよく見かける「トマティス博士の言語別周波数表」です。

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出典: http://beepopenglish.com

各言語には独自の周波数帯があり、日本語と英語は周波数帯がほとんどかぶらないため、「日本人はネイティブの英語を聞き取りづらい」という解説で使われています(イギリス英語やスペイン語でも1,000ヘルツ帯を使用しているという指摘もある)。

この表を見ると、1,000ヘルツ帯というのは、主要言語の多くで使用されている周波数帯であることが分かります。特に日本語では主要な周波数帯と言えるでしょう。

先程、1,000ヘルツ帯の有毛細胞が不全だと「言語内の似たような母音を識別するのが困難になる」可能性が指摘されていました。たとえば、「ある瞬間だけ単語を聴き逃してしまう」とか「母音が近い単語を聞き間違えてしまう(わさび、はさみ、ささみを間違えるなど)」などは内耳の問題と関係があるかもしれません(毎日が空耳アワーならいいのですが)。

たとえば、アスペルガー症候群の人の場合、言葉の発達の遅れが無いにも関わらず「人の話を理解するのが苦手、話を聞こうとしない、話をするのが苦手」などの問題を抱える「受容-表出混合性言語障害」が多く見られます。しかし、研究結果からすると、実は「ある部分がよく聞こえていない」ために「会話理解や表現が苦手」だという可能性も出てきたというわけです。

おわりに

発達障害にみられる「コミュニケーション障害」は「心」か「脳」か、それとも「内耳」の問題か。はたまた、そのすべてなのか。ケースバイケースなのか。

今回の研究で判明した「自閉症児における1,000ヘルツ帯に対応する内耳の反応が悪い」ことと「受容-表出混合性言語障害(コミュニケーション障害)」の関係について、さらなる研究がなされることを期待したいと思います。

内耳や音響放射について知りたい方は、過去の記事が参考になります。

 

asperger.hateblo.jp

 

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*1:現在の日本の医療では、自閉症とADHDを併発しているケースが多いにも関わらず、どちらか片方の診断がなされていることが多いため、タイトルでは総括して「発達障害」という呼称を使用しました

*2:この検査法については「耳の仕組み 鼓膜はテコの原理で振動を3倍に増幅。最後は水振動で毛を揺らす - アスペルガーのメソッド」で説明しています

*3:Could a hearing test help diagnose autism in babies? - Health News - NHS Choices