オキシトシンを連日使用すると「相手の感情を読み取ることができる」? ホント!ウソ?
2015年9月、東京大学医学部附属病院でオキシトシンが自閉症の中核症状に有効だとするプレスリリースがありました。素人目には、何をもって成功と言っているのかよく分かりませんでした(当たり前ですが)。オキシトシン経鼻剤連日投与による自閉スペクトラム症中核症状の改善を世界で初めて実証 | 東京大学医学部附属病院
その後、2015年10月14日(水)のおはよう日本で「オキシトシンを“自閉症”の治療薬に」という特集が組まれました。
番組内では、その研究を一般向けにわかりやすく解説。自閉スペクトラム症の人が「オキシトシン」を連日使用すると「相手の感情を読み取ることができる」というものでした。
しかし、臨床結果の解説を見ると、自閉症の人にオキシトシンが有効とは思えなかっただけでなく、
自閉症スペクトラム障害の人すべてが「相手の表情を読み取れない」というのは、実は言い過ぎではないか。そう確信してしまう内容だったので、記事に残しておきたいと思いました。
以下番組でクローズアップされたオキシトシンの実験結果です。
山末さんは、自閉症スペクトラム障害の人、40人にオキシトシンを投与。
他人の感情を読み取る能力に変化が現れるか臨床研究を行いました。
投与後、人が話しかけてくる映像を見てもらい、その人の感情がうまく読み取れるか調べます。
<笑顔の男性の映像で>「ごきげんだね。」※写真がリンク切れのためありません。
好意的な言葉を、笑顔で話す男性。
言葉と表情が一致している、分かりやすい例です。
一方…。
<渋った表情の男性の映像>「ごきげんだね。」
※写真がリンク切れのためありません。
同じ言葉を、不快な感情を表す表情と声色で話します。
多くの人が嫌みな印象を受ける映像です。
研究では、言葉と表情が一致している映像を40パターン。
言葉とは裏腹な表情の映像を40パターンの、あわせて80パターンの映像を見てもらいます。
そして言葉とは裏腹な表情が伝える感情を、的確に読み取れるか調べました。
その結果、
健常な人で、的確に読み取れた回数は40回中26回、一方、自閉症スペクトラム障害の人では、22回でした。
僅かな差に見えますが、日常の生活では、コミュニケーションの重大な行き違いを招くことがあるといいます。
これをオキシトシンの投与を受けた自閉症スペクトラム障害の人でやってみると…。
的確に読み取れた回数が1割ほど増えていました。
他人の複雑な感情表現をうまく理解できないという症状が改善できることを、世界で初めて確認したということです。(オキシトシンを“自閉症”の治療薬に|特集ダイジェスト|NHKニュース おはよう日本 より引用)
お気づきでしょうか。健常な人は40回中26.1回、自閉症の人は22回。わずか4回の差です。もっと大きな差が出ると思っていました。しかも自閉症の人でも22回表情を読めているのです。実は、自閉症患者は表情を読むのがちょっと下手なだけ、という結果を示しているのです。
しかしNHKの解説では・・・
僅かな差に見えますが、日常の生活では、コミュニケーションの重大な行き違いを招くことがあるといいます。
自閉症の人でも表情を読み取れる人はいる。一般の人でも表情を読めない人はいる。
全体の平均4回表情を読み違えただけで、コミュニケーションの重大な行き違いを招くとどうしていえるのでしょうか。
また、この検査では、健常な人の中に自閉症の人を下回る結果を出した人はいなかったのでしょうか。逆に自閉症スペクトラム障害の人で健常者より優位な結果を出した人はいなかったのか。そこが、分からないようになっています。
健常者がオキシトシンを摂取したら、どうなったのでしょうか。自閉症の人だけに効く薬ではないかもしれません。
わたしは、健常者でも表情を読み取ることが苦手な人を知っています。また、自閉症でも表情を読み取ることができる人を知っています。
かく言うわたしもアスペルガー症候群と診断されていますが「相手の表情を読み取るのが苦手」と思ったことは、子どものころからありません。
むしろわたしは、一般の人が気づかないくらいの表情の変化でも読み取れることがあるので、しばしば周りの人から驚かれるくらいなのです。
日本の社会が微妙なニュアンスの表情を読み取ることを強いている。
そもそも日本人は微妙なニュアンスの表情をする人が多いですし、我慢や忍耐を美徳としている人が多いので、本当の気持ちなんて、そもそも表情に表れにくいのです。
実際のところ、自閉症スペクトラム障害の人全体が「相手の表情を読み取るのが苦手」というより「苦手な人もいる」というのが正解であって、表情を読めないことを自閉症の中核症状の改善というには、少し無理があるように思えます。
オキシトシンに期待すると共に、ネガティブな研究結果もある。
とはいえ、少しでも「相手の表情を読むのが苦手な人」にとって、オキシトシンが役立つなら、それは喜ぶべきニュースです。
しかし、オキシトシンの負の側面にも目を向けた方いいかもしれません。
「愛情ホルモン」オキシトシンのダークサイド|WIRED.jp
いずれにせよ、自閉症の身としては、オキシトシンに関する情報から目が離せません。